お世話になった会社が、無くなってしまった。

会社と家のちょうど中間ぐらいに小さな会社があった。小さいけれど、なんか目を引く会社。で、【ちょっとはいってみるか~】と、飛込み営業をしてみた。

「今日は~○○生命でです。この地域担当になったのでご挨拶させて頂いてます。」         因みに内の会社は、地域の担当は決まっておらず、好きな場所で飛込み営業をやって良い。なのでこの瞬間、【この地域の担当】になるのだ。

中からな、60代半ばぐらいの男性が出てきた。社長だった。営業が来ると、めっちゃイヤな顔をする人も少なくないけれど、この社長はとっても優しかった。

「時々お邪魔してパンフレットなど休憩室に置かせて頂けませんか?」                  

「来ても良いけど、昼間は社員はほとんど現場に出てていないよ。帰ってくる時間もバラバラで、早く現場が終わった日は終わりじまいで帰ってしまうから。」                     すんなりオッケーしてくれた。これだけでもすごく嬉しい。時々チラシと飴をもって伺うようになったなったのだが、社長が言った通り、遅く行き過ぎると皆帰って居ないし、早く行き過ぎてもまだ現場から戻ってきて無くて居ない。でもタイミング良く社員がいる時間に伺うと

「お~い。アンケートだって。協力してやれ。」

なんて若い社員に声をかけてくれる。

社長は、ずっと長く続けている保険会社があり、どうやら仕事上でも取引があるようなので、私も保険のお勧めはしなかった。アンケートを頂いた社員もその後退職してしまい、契約に繋がる事は無かった。 

それでも、家と会社の中間。仕事中もプライベートでも良く会う。ある日、会社帰りにちょうど社長も家に帰るところだったらしく、道ですれ違った。

「今日は~今お帰りですか~」                                「お~ちょっと話があるからさ明日会社によってよ~」

次の日、会社に伺うと思いもよらない話をされた。【70才をもって社長を引退する。新しい社長の経営者保険のプランをもってきて】と言うのだ。

経営者保険とは、契約者を法人にして社長や役員が加入出来る保険。社長や役員の死亡保障にもなるし、退職金の準備としても使える。

「まあ、入るか入らないかは次の社長次第だけど、一応入った方が良いよと勧めておくからさ。」

初めて飛込に行った日から何年も経っていただろう?もう仕事的には何の期待もしてなかった。物事はどこでどう転ぶか分らない。

早速プランを作ってもっていった。なかなか良い感じ!【5月に正式に社長交代だからその後ぐらいに契約かな~?】なんて具体的な話まででた。やった~!!!

でも、いざ社長が交代してみると、話はなかなか進まず。そうこうしている内にコロナ禍に突入。

何度も足を運んだけれど、結局経営者保険はいただけ無かった。期待が大きかった分がっかりだった。

それでも近くに来たときに時々顔を出していると、一応気を遣ってくれたのか

「新人がはいったからパンフレットもってきて。渡しておくから。」

と言ってくれた。社長さん経由でパンフレットを渡して貰った後、プラン提示までこぎつけた。入社1年目の19歳の男性。プランを説明してもピンときてないみたいだ。で、【親にちょっ聞いてみます】という返答だった。

【親に聞いてみますか~それって大体にしてダメなパターンだよな。って言うか本当に親に聞いてる人居ないもん。まっそんなもんだよな~】

それでも、しばらくして私は彼に会いに行った。営業マンたるものプレゼンをしたなら返事はしっかり聞くのだ。ちょうど現場から帰ってきたばっかりで駐車場にいた。 

「今日は~暑いですね。そうそうこの前ご紹介した保険どうでした~!親御さんに聞いてみました?」

「あ、聞きました。入っとけって。」

え~!!!マジで!!!  もうなんかこの仕事感情のジェットコースタだよね。

手続き前にもう一度プランを見直す。社会人1年目の19才の男性だし、保険料は安い方が言い。怪我や病気は手厚くしてコスパも重視してプランを作った。本当はもう少し高い保険だとノルマ的に楽だけど、欲を出し過ぎてはいけない。

そして土曜日、仕事が4時過ぎに終わるというのでその時間にお伺いした。会社に行くと、前の社長も来いて、今日私がここに来た理由も分っていたみたい。仕事を終えて皆帰って行くのに、社長は帰らない。私にそっとコーヒーを入れてくれて、新入社員の方と保険の手続きをしている間も、ちょっと離れたテーブルで新聞を読んでいる。話に入ってくるでも無く、ただじっと新聞を広げている。     一時間ぐらいかな?手続き全部終わった後、「良かったね~良かったね~」て何度も言ってくれて。

次の日は日曜日だったけれど、頑張って早起きしてまた会社に伺った。【独立してから35年ずっと仕事しかして無くって、引退してもやること無いからさ、土日の朝は早い時間ここに来てコーヒー飲むんだよ。】て前に聞いていたから、一言お礼を言いに行きたかった。

「昨日はありがとうございました。」                            「良かったね~」                                      といってまたコーヒーを入れてくれた。コーヒー飲みながら少し世間話をする。                                     「仕事辞めた後やること無いんだね。平日に居ると皆、俺の方に仕事の事、聞きに来るでしょ?そうすると今の社長に悪いから、あまり行かないようにしてるんだよね。なるべく口出さない様にしてるんだ。いろいろ思う事はあるんだよ。だけど彼(今の社長)も聞い来ないし。なんか嫁と舅の関係にちかいよね。」                                          なんて言っていた。でも、35年で作ってきた取引先をそのまま引き継げるんだから頑張って欲しいって。

それから何ヶ月かが経って、夏になった。この会社は夏が繁忙期。忙しい時期は迷惑だろう思い、真夏の間は顔を出していなかった。ちょっと涼しくなって、久しぶりによってみよう~と行ってみたら、会社が閉まってた。っていうか空っぽだけど?!もしかして移転か?!!とネットで調べてみても新しい住所らしき物が出てこなかった。前の社長に速攻電話したら、

「実は7月で廃業したんだよ。」

へ?返す言葉がなかなか出てこない。

「社員さん達はどうされたんですか」             

 「分らないよ。」

ちょっとまって混乱。社長が変わってから、3年経ったか経たないかだと思う。

新しい社長もとっても人当たりがよくって話しやすい人だったけど。会社を経営するという事は本当に大変で難しい事なんだな~ 

そして、保険入ってくれた19才のお客様、大丈夫かな~。保険解約になったらどうしよう。今解約されるとペナルティーがっつりくるんだけど~。こんな時でも解約の心配してしまう自分が、イヤ。

でもやっぱりショック。保険とか関係なく、前の社長には良くして貰った。特に社長引退してからは、旅行のお土産を頂いたり、娘と私を車に乗せてブルーベリー摘みに連れてってくれたりもした。社長と話してて、よく覚えている言葉があうる。

「社長お酒飲むんですか?」           

って聞いた時

「いつお客さんから電話かかってくるか分らないからお酒飲め無いんだよね。そのうち飲まなくなったよ。」 

35年そうやって続けてきた会社が無くなったらどんなにか寂しいだろう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました